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#23デザイン2/10

古民家デザイン帖 - 時を紡ぐ、暮らしを彩る

【コラム・第2話】古民家再生、最初にぶつかる3つの「知らない壁」

しばらく空き家になっていた実家の鍵を、久しぶりに握りしめる。 立てつけの悪くなった引き戸をがらりと開けると、ひんやりとした空気と、懐かしい匂いがふわりと迎えてくれる——。

近ごろ、こんな場面からスタートする古民家再生のご相談が、本当に増えてきました。親や祖父母が大切にしてきた家を、「壊してしまわずに、なんとかして残したい」。気持ちはほぼ固まっているのに、いざ再生を考え始めると、知らないことばかりで途方に暮れてしまう……そんなご相談者の方が、実際とても多いのです。

新築や一般的なリフォームと違って、古民家再生には独特の「壁」がいくつかあります。今回は、ご相談の場でよくつまずきがちな3つのテーマを取り上げて、整理してお伝えしたいと思います。

■ 【壁その1】「うちの家、勝手に直せないの?」 — 法的なルールの話

最初の壁は、意外なところで出てくる法律や制度の話です。

「自分の家なのだから、どう直そうが自由でしょう?」と思われるかもしれません。基本的にはその通りなのですが、こと古民家になると、いくつか注意したいポイントがあります。

築年数の古い建物は、現在の建築基準法とのあいだに大なり小なりズレがあります。間取りを大幅に変えたい、構造体に手を入れたい、住宅から店舗に用途を変えたい——こうした工事は、再申請や審査が必要になる場面が出てきます。

さらに、対象の建物が文化財や歴史的建造物として登録されている場合は、外観や主要な意匠を勝手に変えられない、というルールがかかることもあります。これを面倒な制約と捉えるか、文化的価値を引き継ぐためのお約束と捉えるか。後者の見方をしていただくと、再生の方向性も見えやすくなります。

それから、地域によっては景観条例や保存地区の指定がかかっているケースもあります。「この地区では屋根材の色はこの範囲まで」「外壁の素材は伝統工法に準じたもの」など、想像していなかった制約に出会うこともあるので、計画の早い段階で自治体や専門家に相談しておくのが得策です。

知らずに進めてしまうと、あとで工事のやり直しという最悪のパターンにもつながりかねません。「最初に確認、次に動く」——これが古民家再生の鉄則です。

■ 【壁その2】「うちの家って、そもそもどんな家?」 — 古民家のタイプを知る

ふたつ目の壁は、「自分の家のことを、自分が一番分かっていないかもしれない」という事実です。

ひと口に古民家と言っても、その性格はかなり多様です。代表的なタイプをいくつか挙げてみると、

**町家(まちや)**は、京都や金沢などの都市部の旧市街でよく見られる、商家や職人の住まいです。間口が狭く奥行きが長い、いわゆる「うなぎの寝床」のような敷地が特徴で、通り土間、坪庭、格子戸など、限られた敷地を活かす工夫が随所に見られます。

**農家(のうか)**は、農村部に建てられた、生活と農作業が一体となった住居です。広い土間、太く堂々とした梁、瓦屋根や茅葺き屋根——新潟をはじめとする地方で「古民家」と聞いて多くの方が思い浮かべるのは、おそらくこのタイプです。

**武家屋敷(ぶけやしき)**は、武士の住まいだった建物で、城下町に残るケースがほとんど。格式を重んじる意匠、書院造りに連なる作り込み、整えられた庭園など、特別な格を持っています。

地域や時代背景によって、構造の組み方も、価値の見いだし方も、再生の方針もずいぶん変わってきます。新潟であれば、雪国特有の屋根形状や、間取りの工夫など、土地ならではの知恵が凝らされていることもしばしばです。

「うちの家は、何タイプなんだろう?」——これは思いのほか奥の深い問いで、調べていくとご自分のルーツや地域の歴史にまで話がつながっていくことがあります。再生プランは、ここをしっかり押さえることで、ぐっと深みのあるものになっていきます。

■ 【壁その3】「結局、いくらかかるの?」 — お金の話と、味方になる制度

そして、いちばん気になる3つ目の壁は、もちろんお金です。

「古民家再生って、結局いくらかかるんですか?」——ご相談で、ほぼ必ず出る質問です。正直なところ、答えはケースバイケースで、ピンからキリまで開きがあります。

骨組みが健全で部分的なリフォームで済む場合もあれば、シロアリ被害や雨漏りで土台から見直す必要があるケースもあります。構造補強・断熱改修・水回りの全面更新までしっかり含めると、新築と同等、あるいはそれ以上の費用がかかることも珍しくないというのが、現実的なお話です。

「だったら新築のほうが……」と心が揺れるかもしれません。でも、ここでひとつ立ち止まっていただきたいのです。古民家再生は、お金には換算しきれない価値——時間の蓄積、土地との結びつき、家族の記憶——を引き継いでいく仕事です。費用だけでは天秤にかけきれない要素が、確かにあります。

そして、忘れてはいけないのが補助金や助成制度の存在です。

国や自治体は、古民家再生を後押しするさまざまな制度を用意しています。耐震改修への補助、省エネ改修への補助、移住・定住に紐づいた補助、伝統的建造物の保存に対する補助——複数を組み合わせて活用できるケースもあります。

新潟県内でも、市町村ごとに異なる補助制度が整えられています。お住まいの地域の自治体ホームページや、地元の建築会社に問い合わせることで、最新の情報が得られます。

「使える制度を、漏らさず使う」。これだけでも、最終的なご負担は驚くほど変わってきます。

■ 「壁」は、一人で越えなくていい

3つの壁を並べてみると、なんだか古民家再生はハードルが高い……と感じてしまうかもしれません。でも、ご安心ください。これらは一人で越える必要のない壁です。

専門家と一緒に整理していけば、それぞれの壁は思っているほど高くありません。むしろ、最初に立ちはだかった壁を一つずつ越えていく過程で、ご自分の家の輪郭が少しずつくっきりしてきて、「再生のかたち」が自然に見えてくる——そんな体験になることのほうが多いと感じています。

Reafでは、現地調査、構造・断熱の診断、法的事項の確認、補助金活用のご提案までを、ひと続きのご相談としてお受けしています。「まずは話を聞いてみたい」「うちの家、再生って可能なんでしょうか?」という、漠然とした段階でのご相談がいちばん多い、というのが実際のところです。

 

次回はいよいよ、古民家の特性を活かしたデザインのお話に入っていきます。残された素材や空間を、どう現代の暮らしに溶けこませていくか。再生の本当のおもしろさが見えてくる、わくわくするテーマです。お楽しみに。